会社設立後は給与(役員報酬)をいつから払うかで計算が変わる!
会社を設立して社長に就任したとしても、社長という権限によって自分の報酬(給与)の額を勝手に決めることはできません。
自分を含め、各役員の報酬については、国が定めた厳格なルールにのっとって正しく支払う必要があります。
ここでは、役員の報酬はいつから支払わなければならないのか、役員報酬の基本ルールとして定められている内容は何かを解説します。
会社設立後における役員報酬の決まりについて理解を深めてください。
目次
会社設立後はいつまでに役員報酬を決めなければならないのか?
役員報酬は、会社設立から3か月以内に金額を決定して支払わなければなりません。
会社設立後の役員報酬に関する基本的なルールとなっているので、「3か月以内」という期間を、まずは覚えておきましょう。
会社設立から3か月以内に臨時株主総会を開いて役員報酬を決める
役員報酬は、会社設立から3か月以内に臨時株主総会を開き、総会の中で具体的な金額を決定します。
例えば、7月3日に会社を設立した場合には、3か月後の10月2日までに臨時株主総会を開き、各役員の報酬を決定して支払います。
あらかじめ定款で役員報酬の額を決定しておくことも可能です。
会社を設立してすぐに役員報酬を支払っても良いが…
「会社設立から3か月以内」が役員報酬支払いのルールとなっている以上、より早い時期(会社設立から1か月以内など)に役員報酬を支払っても問題ありません。
ただし設立直後の会社の多くは、設立してすぐに安定的な売上を確保できるわけではありません。
そのため、仮に会社設立からすぐに一定の売上を確保できたとしても、あえて最初の2か月は役員の役員報酬をなくし、その売上が安定的かを見極める会社も少なくありません。
2か月間は様子を見た上で、期限ぎりぎりの3か月目に役員報酬を決定して支払いを始めるという手段も有効です。
会社設立3か月以内に決めた役員報酬は全額損金に算入される
会社を設立して3か月以内に役員報酬の額を決めた場合、以後、会社が支払う役員報酬の全額が損金に算入されます。
損金に算入されれば、その分だけ会社の税金を抑えることができるため、必ず会社設立から3か月以内に役員報酬を決めておくことが大切です。
役員報酬と役員賞与の違いについて
役員には、役員報酬の他に役員賞与が支払われることもありますが、それぞれ税務上の取り扱いが異なる点に要注意です。
役員賞与の意味や役員報酬との税制の違いなどについて確認してみましょう。
役員賞与とは
役員賞与とは、毎月の役員報酬とは別計算で支払われる臨時の給与を言います。
一般従業員に支払われる「ボーナス」と同じイメージです。
多くの会社では、一般従業員に対して夏と冬のタイミングで年に2回のボーナスが支払われますが、役員報酬についても同じタイミングで支払われることが一般的です。
役員報酬は、原則として損金に算入できません。
税務処理における役員賞与の範囲
会社法上では、役員報酬も役員賞与も同じ「役員報酬」という範囲に含まれます。
一方で税務処理上における役員賞与は、「役員に対して退職金以外で臨時に支払われる給与」と定義されます。
会社法の解釈に応じて役員報酬を理解していた場合、確定申告で誤った計算をしてしまう恐れがあるので注意してください。
役員報酬・役員賞与と損金算入の具体例
役員に対する年間給与の総額が一定であっても、役員報酬と役員賞与の内訳次第で、会社の損金へ算入できる金額が変わります。
例えば、役員への年間給与の総額を900万円とした場合、支払いの形式を「役員報酬75万円×12か月=900万円」とすると、支払った全額を会社の損金に算入できます。
一方で、支払いの形式を「役員報酬60万円×12か月+役員賞与180万円=900万円」とした場合、役員賞与分を差し引いた720万円のみが会社の損金となります。
いわゆる「平取」の賞与は全額損金に算入できることがある
専務取締役や常務取締役などを除く平の取締役(いわゆる「平取」)の中で、他の一般従業員と同様に、賞与の全額を損金に算入できる人もいます。
それは局長や部長などの従業員としての肩書も持つ取締役で、彼らの賞与は全額損金に算入できます。
役員報酬を損金へ算入するための基本的なルール
税務処理上、損金に算入できる役員報酬の種類は、以下の3つになります。
定期同額給与
定期同額給与とは、1か月以内ごとに同じ金額が支払われる役員報酬を言います。
設立から3か月以外に決定した役員報酬、または定款で定めた役員報酬が、定期同額給与です。
定期同額給与は、全額損金への算入が可能です。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、決まった時期に決まった金額を役員へ支払う旨について、あらかじめ税務署に届出を出して支払う給与を言います。
事前確定届出給与は、全額損金への算入が可能です。
「決まった時期」とは、定期同額給与とは異なり「1か月以内ごと」にする必要がありません。
例えば「夏と冬の決まった時期に2回、決まった金額を支払う」と税務署に届出を出していれば、実質的に役員賞与を損金へ算入できます。
利益連動給与
利益連動給与とは、会社の利益に応じて金額が変動する役員報酬を言います。
利益連動給与として支払われる役員報酬は、全額損金に算入可能です。
ただし利益連動給与を設定する場合、「同族会社には認められない」「支給金額の算定方法を事前に設定して有価証券報告書で開示する」などの厳しい条件があります。
事務手続きは大変煩雑になるため、一般的な中小企業で利益連動給与が設定される例は、あまり多くありません。
役員報酬の日割計算について
役員報酬の日割計算について、大事なポイントを確認しておきましょう。
役員報酬には「日割計算」という考え方がない
一般従業員が月の途中で会社に入社した際、初月の給与は日割計算されて支払われることが一般的です。
一方で役員の場合、報酬の額を月の途中で決定したとしても日割計算されることはなく、決定した金額の満額が支払われる形となります。
例えば、会社設立から3か月目の半月が経過した時点で役員報酬を決めた場合、「半月たっているから初月の役員報酬を半分にする」ということはできません。
半月たっていたとしても、1か月分の満額を役員報酬として支払う必要があります。
もし役員報酬を日割計算で支払ってしまった場合
上記のルールを知らず、もし最初の役員報酬を日割計算で支払ってしまった場合、翌月以降も同じ金額までしか損金に算入できなくなります。
例えば「役員報酬を1か月90万円にする」と決めたものの、最初の月の役員報酬を日割計算して40万円しか支払わなかった場合、40万円までしか損金に入れられません。
それは、たとえ翌月以降で規定の90万円の役員報酬を支払ったとしても、40万円までしか損金に入れられないのです。
会社の節税と役員個人の節税は競合する
原則として役員報酬は全額を損金算入できるため、役員報酬が高ければ高いほど、会社は法人税などの節税につながります。
一方で、役員報酬を高く設定すると、その分、役員の源泉税(所得税や住民税など)や社会保険料が高くなります。
つまり、会社の節税と役員個人の節税は競合する、ということです。
会社の節税効果と役員個人の節税効果を理想的な形に着地させるためには、会社の法人税や役員個人の源泉税などのバランスを考えて役員報酬を計算することが大切です。